仮にその女性を朋子さんとしておきます。
土曜の休みの日、久しぶりに朋子さんは友達と飲みに行く約束をしていた。
飲みに行く場所は電車で20分程度の繁華街。
その繁華街は週末ともなれば、大勢の人で賑わうところでもあった。
待ち合わせは19:00時。
友達が彼氏と映画を見に行く予定が入っており、映画が終わるのが18:30。
それに合わせて、映画が終わってから駅で待ち合わせをして、3人で食事がてら飲みにいく事になっていた。
18:00を少し過ぎたあたりに家を出て、最寄り駅まで徒歩10分。
電車は10分おきには出ていて、待ち合わせには間に合う時間。
友達の彼氏とは、3人で何回か会っていて、特に緊張することも無くなっていた。
飲みに行くお店は、スペイン料理とワインがメインのバルを予定している。
お店には、予約を取っているみたいだった。
最寄り駅に着き、階段を上がっていく。
電光掲示板には、次の上り電車は、5分後となっていた。
改札を通り、ホームを最後尾の方へを歩いていく。
最後尾は、比較的空いている為どこかに出かける場合は最後尾に乗る事にしていた。
最後尾の方へ到着すると、少し離れたところに一人二人と何人かは居る。
鞄の中身を最終チェック。
お化粧ポーチにハンドタオルに、お財布に、携帯電話に・・・・。
鞄をガサゴソ・・・・ガサゴソ・・・・。
駅近くの踏切が「カーン、カーン、カーン、カーン・・・」
そして、アナウンスが流れる。
「間もなく2番線に上り列車が参ります、危ないので黄色い線の内側でお待ちください」
すると、いきなり「ドン!」と背中を押された。
「痛!!」
前につんのめり、あと30cmで線路に落ちるところだった。
「痛いな!」と後ろを、振り返ってみると誰も居ない。
誰かが背中を押したはずなのに、誰も居ないなんて・・・。
周りを見渡しても、さっき居た人が居るだけで、誰か後ろを通った面影はなかった。
「おかしいな~・・・・」
周りをきょろきょろしているうちに、電車が到着した。
ドアが開き、誰も降りる様子はない。
そして、電車に乗り込もうとし、一歩電車内に足を踏み入れた時だった。
「死ねば良かったのに・・・・」
と、男性の低い声が耳元で聞こえた。
後ろを見てみても、やはり誰も居ない。
怖くなって、急いで車内に乗り込む。
何?何?なんで?!
少し混乱しながら、落ち着こうとする。
電車の中は、いたって普通で、スマホを弄る人や、カップルがイチャイチャしていたり、ベビーカーの家族連れ。
そして、ふと思い出した。
あそこの駅は、年に1回~2回は毎年、18:00過ぎの夕方に線路内に飛び込み自殺することが有る事を。